2012年4月1日日曜日

オランダ産木靴のある風景




















オランダ産木靴のある風景です。この木靴は、私の研究室に8ヶ月滞在した招聘研究員のヘイハードさんからいただいたプレゼントです。私の知っている研究者の中でも特に優れている研究者で、楽しく細胞壁多糖類の分析やその構造解析について語り合ったことを思い出しています。



オランダは、第二次世界大戦中にドイツ軍に対して強く抵抗し、ユダヤ人を守る戦いを行いました。「アンネの日記」はその出来事の一端を示しています。しかし、そのためにドイツ軍に占領されたとき極めて過酷な占領政策にあいました。その一つは食料政策です。生きるのがやっとの食料しか配分されませんでした。

その影響は、戦後も続きました。その頃生まれた子どもたちが成人したとき、他の世代より糖尿病など生活習慣病の発生が多いことが分かりました。

次に紹介する科学論文は、占領政策と2型糖尿病との関係を証明する実験結果です。戦争は極めて長い間、人々を苦しめることを忘れてはいけないと思います。


【文献紹介】母親の低栄養状態は赤ちゃんに影響する

 2型糖尿病の素因となるインスリン抵抗性やインスリン分泌能に、母親の低栄養状態が影響することが、げっ歯類や羊などに続いて霊長類を対象とした実験でも実証され、「アメリカ心理学会誌-調整・統合・比較心理学」に報告されました。

 年齢が似通った18匹のメスのヒヒを対象にして、妊娠30日目から授乳期を終えるまで実験が行われました。コントロール群の12匹の母親には自由に摂食させ、低栄養群の6匹の母親には体重あたり適量の70%程度に食事制限を行いました。そうした母親から生まれた子どもは、コントロール群でメス8匹、オス4匹、低栄養群はメス2匹、オス4匹でした。離乳後の子どもには食事制限を行いませんでした。

 ヒトに換算すると思春期の手前にあたる生後3.5年の時点で糖尿病検査の糖負荷試験で、低栄養群の母親から生まれた子どもは空腹時血糖と血中インスリン量が統計的に有意に高く、コントロール群に比べるとインスリン曲線下面積が大きいことが分かりました。このことは、低栄養の母親から生まれた子どもたちはインスリンの分泌が過剰で、血糖の調節ができないインスリン抵抗性2型糖尿病予備軍であることを示しています。一方、コントロール群の子どもは1匹もこうした現象は認められませんでした。

 以上の結果から、やや低栄養程度でも、その子どもたちには2型糖尿病の素因が形成されることが分かりました。

【文献】
Choi, J.K. et al.: Emergence of insulin resistance in juvenile baboon offspring of mothers exposed to moderate maternal nutrient reduction. Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol., online Jun. 8, (2011) [doi: 10.1152/ajpregu.00051.2011]